セゾン現代美術館 Sezon Museum of Modern Art

SEZON STORY

自然と共生する美術館

人間社会における美術館は、生態系のなかでのナナフシです。それはどちらも一見、何の役にたつのかわからないと思われているからです。ナナフシは私が一番好きな昆虫で、葉を食べ、敵に見つからないよう枝に擬態しているだけですが、実は葉を食べることで森林の更新を進めるという重要な役割(生態学で「ニッチ」という)を担っています。

美術館も従来、人間社会で何の役にたつのかわからないと思われがちですが、そうではありません。特に現代アートは、既成概念の打破や新しいものの見方を呈示する目的で制作されることが多く、作品を見る人が議論をして、自分のものさしで物事を判断できるようになることが「シトワイヤン(能動的市民)」の誕生につながり、権力者の間違った煽動に動かされないシトワイヤンの誕生こそ、平和な社会への礎になるからです。つまり美術館は、平和を希求する人間社会の中で重要な「ニッチ」(役割)を占めています。この役割を果たすため、私たちは、翠緑のなか軽井沢の自然と調和し、美術館が陥りがちな権威主義を打破する展示をしながら見る人と対話をし、現代アートの真の愉しさを一緒に感じてゆきたいと考えています。

セゾン現代美術館代表理事・館長
堤たか雄